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静かな思索の時間をもたらす「李禹煥美術館」

李禹煥美術館は12年前の今日、2010年6月15日に開館しました。

直島の李禹煥美術館は、1970年前後の「もの派」と呼ばれる日本の現代美術運動の中心的作家であり、世界的評価の高いアーティスト・李禹煥の初の個人美術館です。

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李禹煥美術館(撮影:山本糾)

海と山に囲まれたなだらかな谷あいに立つ李禹煥美術館は、安藤忠雄設計の自然の地形を生かした建物と、正面に建つ氏の柱の作品とが響きあい、縦と横の緊張感を生み出します。

「洞窟のような場所」と作品とを結びつけた空間

半地下構造の建物のなかには、李禹煥の70年代から現在に到るまでの絵画・彫刻が展示されています。

李禹煥美術館の作品は、静かに繰り返される呼吸のリズムにのせて描かれた筆のストロークの平面作品や、自然石と鉄板を組み合わせ、極力つくることを抑制した彫刻作品など、空間と融合した余白の広がりを感じさせる代表作です。

李禹煥美術館「出会いの間」(撮影:山本糾)

当初は自身の美術館をつくることに乗り気ではなかったという李禹煥ですが、美術館の構想を練る中で「『洞窟のような場所』と作品とを結びつけた空間」というイメージにたどり着いたと語っています。

ひとつの石がアートになるまで

李禹煥が作品に用いる素材の一つに自然石があります。李禹煥は作品を制作する際、展示される地域にて石を採取することを重視しているそうです。

李禹煥「関係項-合図」2010年(撮影:山本糾)

李禹煥美術館の作品においても、李禹煥は岡山、香川などの瀬戸内の採石場をめぐり、山間の河川にも足を運びました。李禹煥美術館での作品制作プロセスの一部は、ベネッセアートサイト直島公式サイトのブログ記事でもご紹介しています。

通るたびに新しい体験ができる無限のアーチ

2019年には李禹煥美術館の「柱の広場」に、長さ25メートル・幅3メートルのステンレス板とアーチ、2つの自然石からなる彫刻作品「無限門」が誕生しました。

李禹煥「無限門」2019年(撮影:山本糾)

この作品の直島町民お披露目会で、李禹煥は「無限門」について、以下のように語っています。

「この門をくぐるたびに、空が広く見える、海が爽やかに感じられる、あるいは山が新鮮に映るなど、いろいろな感覚があると思う。そういう意味で『無限門』という名を付けた。作品について難しく意味を考える必要はないので、ここを通るたびに新しい体験をしてもらいたい」

ベネッセアートサイト直島公式サイト ブログ記事より

自然や空間、世界そのものとの静かな対話

自然と建物と作品とが呼応しながら、モノにあふれる社会の中で、我々の原点を見つめ、静かに思索する時間をもたらす李禹煥美術館。

刺激や興奮、変化に溢れた日々の暮らしから一歩離れ、自然や空間、世界そのものとの静かに対話する――そんな李禹煥美術館ならではの時間をぜひお過ごしください。

李禹煥美術館(撮影:山本糾)

「朝の貸切ツアー」のご案内

李禹煥美術館では、開館前の美術館をご案内する「朝の貸切ツアー」を日程限定で開催しています。ゆったりとした朝の時間のなかで、移ろいゆく日の光や鳥のさえずり、木々のさざめきを感じながら、3つの作品空間をお楽しみいただけます。