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地中美術館 限定プログラム「夏の特別ツアー」レポート

1日を通して刻々と表情が変化する美術館

地中美術館は、瀬戸内の美しい景観を損なわないよう建物の大半が地下に埋設されています。建物内部のほとんどの照明は自然光だけで、1日を通して刻々と変化する作品や空間の表情の違いを味わうことができるのが、地中美術館の大きな特徴です。

地中美術館は建物の大半が地下に埋設されている(写真:大沢誠一)

地中美術館「夏の特別ツアー」は、自然光の変化を最も感じやすい夕暮れ前の時間帯に、美術館をスタッフがご案内する夏限定の鑑賞プログラムです。

今回の記事では、この「夏の特別ツアー」についてレポートします。

日中と夕暮れ時の美術館の違いを体験できる「夏の特別ツアー」

今年は瀬戸内国際芸術祭が開催されていることもあり、地中美術館をすべてのお客様に快適にご鑑賞いただくため、「プライベートツアー」や「地中トークガイドツアー」などの館内をご案内するツアーの開催日を例年より減らしています。その反面、お客様からはツアーについてのお問い合わせやご要望を多くいただいていました。

そこで、閉館前後の静かで落ち着いた環境の中でツアーを開催する「夏の特別ツアー」が企画されました。

「夏の特別ツアー」は、当日に地中美術館へ来館された方が参加対象となります。つまり、美術館の日中と、夕暮れ時、その両方の違いを体験していただけるのがこのツアーの醍醐味です。

閉館時間後の美術館で行われる「夏の特別ツアー」は、スタッフが一方的に解説するのではなく、館内で気付いたことや感じたことをお客様と一緒にお話しながら巡ります。

日没にはまだ時間がありますが、昼間の厳しい日差しがやや落ち着いてくる夕暮れ時にツアーはスタート。閉館時間を迎えると館内はツアー参加のお客様のみとなるため、静かで落ち着いた環境のなかで鑑賞することができます。

三角形の中庭での鑑賞の様子

「日中との見え方に、どんな違いを感じますか?」アテンドスタッフの問いかけに、ツアー参加者は作品や展示スペースを注意深く観察し、気づいた発見を語り合います。

光の入り方の違いはもちろんのこと、館内の気温や風の流れ、聞こえてくる音、作品や展示空間の印象までもが、注意深く観察すればするほど、日中と異なって感じられるようです。

地中美術館の吹き抜けの廊下(写真:藤塚光政)

日中との見え方の違いは、美術館内にある吹き抜けの廊下で強く感じられるかもしれません。高いコンクリートの壁に挟まれた天井のないこの廊下では、光の表情や影の差し方など、太陽光の角度によってさまざまな変化が見られます。

コンクリートという本来、無機質な人工物が、季節や気候、時間帯によって実に多様な表情を見せるのが、安藤建築の魅力の一つと言えるでしょう。

自然光のみで展示した「クロード・モネ室」

クロード・モネの「睡蓮」シリーズ5点を自然光のみで展示した「クロード・モネ室」も、日中との印象が大きく変わる空間の一つです。

地中美術館のクロード・モネ室は、モネが最晩年に構想した建築プランをもとに設計され、角のない壁、自然光の間接照明、大理石や漆喰を使った白の演出など、随所にモネのアイデアを取り入れています。

絵画だけでなく、作品が展示されている空間自体が、時間帯による採光の違いによって表情を変えていきます。その様子からは、モネが2×6メートルの大装飾画「睡蓮」で表現しようとした“絶えまない自然の営み”そのものが感じられるようです。

作品を自然光の明かりのみで鑑賞いただく「クロード・モネ室」(写真:畠山直哉)

その時にしか見ることができない瞬間をツアーで共有

「夏の特別ツアー」は、クロード・モネ室のほか、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの展示スペースを参加者のみでゆっくりと回ります。最後に参加者が向かうのは、美術館内のカフェ・スペース「地中カフェ」です。

瀬戸内の美しい風景が一望できる「地中カフェ」で参加者のみなさんでツアーを振り返りながら、「夏の特別ツアー」のために作られたオリジナルドリンクをお召し上がりいただきます。

夕焼けから日没までの変化を表現したオリジナルドリンク(写真:近藤拓海)

「夏の特別ツアー」をアテンドする地中美術館スタッフは、以下のように語ります。

「このツアーは定員が8名で、少ない人数だからこそじっくりご鑑賞いただけます。日中鑑賞したときに抱いた疑問や質問、その場で浮かんだ感想など、スタッフと話もしやすいかと思います。地中美術館は恒久展示につき、展示内容自体は変わりません。ただ、館内はほとんど自然光のみで照らされていることもあり、その時にしか見ることができない作品や建築の表情があります。スタッフでも『晴れた夏の正午のウォルター・デ・マリア室の雰囲気が好き』『夕方、雲が流れている日のクロード・モネ室がドラマチックで好き』『小雨の降る日のオープン・スカイで聴こえる音が好き』など、一人ひとりの中にさまざまな季節・天気・時間帯ごとに見つけた美しい瞬間があります。その日に美術館に来てくださった方々が見つけた美しい瞬間を共有できたら嬉しいです。また、私たちもツアー中にもみなさまと一緒にそういった光景に出会えることがとても楽しみです。『ああ、今日来て良かった』『今この場にいることができて良かったな』と思ってくだされば、これ以上のことはありません」

地中美術館「夏の特別ツアー」は、2022年7月と8月の毎週金曜日限定で開催しています。ぜひこの機会に、日中とはまた異なる表情の地中美術館をお楽しみください。ゆっくりとした時間の中で作品と向き合うことを通して、色々なことを考えるきっかけになれば幸いです。

安藤建築の醍醐味を味わえる地中美術館(写真:松岡満男)

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